腕
あなた何処に行きなさると尋ねれば
どこがいいと逆に問われた
行き先も決めずに発つ日は決めていたのですかと笑ったら
そうだと短く答えるあなたの目は、やはりどうしようもなく澄んでいる
穢れ無き聖人の眼ではない
飼い馴らされる事を知らぬ誇り高い獣の目だ
身体は岩で毛はしろがね
その牙は常に喉笛に食らいつくため白々と研いでいた獰猛な獣だ
美しい
少なくとも私にはそう見える
そして残酷だった
いくら切実に、祈りを満点の星ひとつひとつにまで捧げたとしても、その目は私の手には入らない
その目が見つめるのは膨大な過去の遺産かもしれないし、道中見上げる空かもしれないが
白い塀に囲まれて権力者として老いる私はそのどちらも持ち合わせていなかった
私は貴方の求めるものを持っていなかった
東なんてどうです
お天道様に朝一番の光りの粉を頂くんです
顔を近付けてその眼を覗き込みたいとひどく渇望する
ややあって、わるくないなと返された
誘惑だと知りつつも抗えぬものがそこにあった
一番欲しいものがたしかにそこにあった
だが今度の機会にしよう。と、やはり彼は静かに付け加える。
ほんの少し手を伸ばせば確実に手中に入る
諦めて喰われてしまえと呼んでいる
呼び声は愛しい貴方の声だ
底知れぬ憂いをしんしんと重ねてきた湖は深く
うっかり魅せられた獲物を沈める
そうして己の憂いを慰めて、沈黙しながらまた餓えるのだ
その人は言った。、これから行って、俺は西の邪鬼の腕をもいで来よう。と言った
もいでどうなさると問えば
そしたら自分の腕と挿げ替えるのだと言った
何故そんなまどろっこしい事をと問えば
まどろっこしい事などない
ただ血肉のついた腕がいいのだと言って、
やっとあなたはくくと笑った
血肉のついた腕で、お前を抱きしめる為に
2006/3/3 (Fri.) 15:12:31
処女作。