川べりにゆっくりと跪き、強張った利き手の指を、もう一方の手で一本ずつ言い聞かせるように、刀から引き剥がしていく。
鈍い音をたてて、土手の雑草の上に、愛刀がどさりと落ちる。
水面で生臭い朱色を洗い流した。
まだ冬の寒さを残した川は、岩の肌にも刺すように冷たい。
ぼんやりと浸かっては揺らぐ自身の手を眺めながら、先ほど自分が受けた襲撃の状況を思い起こす。
何か敵の正体が知れるものはなかったか、共通した手口はなかったか。
そこまで思考をめぐらせてはっと息をのみ、ざばっと冷えきった手を懐に入れて、手ざわりだけでそれの無事を確認しほっと息を吐いた。
もちろん己の体の心配などではない。
この体はちょっとやそっとの斬撃では、びくともしない硬度を誇るのだ。
問題は自分の持ち物で唯一壊れやすく、かつおろそかにできない物。
その小さな感触を握りしめて、眼下にひっぱりだしじっと眺める。
冷え切った手のひらに乗っていたのは、青い小さな護符だった。
ほんの少しでも欠けたならば、土に帰れと打ち捨てられるものを。
いまだあの日の輝きを衰えさせることもなく色褪せることさえ知らぬ。
むしろその青は、以前より色を濃くしているかのようであった。
その深みに魅入られて
その深みに囚われて
もう後戻りは出来ないのだと胸の内から誰かが叫ぶ
それがあんまりざわざわと頭の中で騒ぎ出すから
それがいたずらにそこらじゅうを掻き毟るから
俺は変わらぬものでも信じるようにそれを額に押し当てた。