そんな君を思い出す

お前が子供のように桟橋の手すりから身を乗り出して
魚が見えますよと笑った

俺はその声に少し気分をよくして
お前の背を軽く小突いて脅かした

もちろんお前はびっくりして、なんだか妙な声を上げて落ちそうになったけれど
俺はそんな事はお見通しで、お前の首根っこのあたりを子猫をつまむみたいにして引き戻した

頬を膨らませて抗議をするお前をすておいて
大振りだな。行って捕まえてしめてやろうか?と言ったら

お前は急に悲しそうな顔をしたっけな

冗談だと付け加えたら
お前心底真面目な顔をして
貴方にもあれが見えると私は知ってます。何故見えないふりをして目をそらすんです。なんて憎まれ口を叩いたっけな


魚は海から帰った鮭だった


そらしはしない。お前があの魚のはげかけたうろこを見てそんな顔をするならば。
俺は随分と昔にお前の痛みを共に感じてきっと忘れるまいと誓ったのだ。
水蜜桃のような優しさはいけない きっと驕って忘れてしまう
せめてその痛みだけでもと
せめて消えない傷のように焼きつかせて

お前の青い瞳に懸けて

俺のちっぽけな命などではなく

お前はそれを知らない

お前はそれを知らない。




















2007.7.11