愛しのレディー



「レディーなんです。」



途端、ゼルガディスの眉間に皺が寄り、目が訝しげに細められる。
「謎かけか?」とそのまま口を開こうとするも、己で真一文字に引き戻す羽目になった。




頬に微かに触れたそれに暫し瞑目。





まばたきを忘れた男は、結局何ごとも吐けぬまま…



「レディーなんですよー!」




笑って一声大きく叫ぶと、アメリアは季節外れの菜の花を飛び越えて、緑の草原へと駆け出して行った。
茂みに隠れていた小鳥が数羽、慌てて舞い上がったようである。


あとに残るは、魔道書をとり落とし、誰かにぶたれた後のように頬に手をあてる残酷な魔剣士のみ。

「そっかぁアメリア、レディーなんだな。」
「ゼルも大変よね。なんてったって相手はお子様じゃないんだから!ってわわゼルたんまキャー!」















おわり
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 
 コンサートへ
 
 
 
 

昼下がりの木陰で珍しく四人で食事を取ったあと、ゼルガディスは木にもたれかかって厚手の魔道書を開き、
アメリアはその隣に腰掛けて、何の気なしに、空を眺めていた。

リナとガウリイは先ほど見つけた赤い木苺の茂みで、口当たり良く熟れた甘酸っぱいデザートをとるのに夢中である。
旅人を悩ませる長雨の後の、久方ぶりの雲一つない晴天である。

「ゼルガディスさん」
「……。」
「私のこと子供だと思ってるでしょ?」
「……藪からぼうになんだ?」
「あっやっぱり聞こえてた。聞こえてるのに知らん振りするなんて。さてはゼルガディスさん…悪ですね!」
「だからどうした。…実際大人じゃないだろうが。」
「むうー。でもですね、私実は子供じゃないんですよ。」
「なんだ。いっぱしに女か?」

やっと本から目を離し、いかにも馬鹿らしいとでも言うように笑みを浮かべる。

「いいえ、でもねゼルガディスさん。私…」

そこで言葉を切って、すっくと立ち上がり
ドレスと呼ぶには、やや短かすぎるその法衣の裾を恭しく持ち上げて、ただ一言。