針と糸で縫いとめて




















「お前…そこで何をしている…?」
「ゼッゼルガディスさん!?何ってその見れば分かるじゃないですか。傷んだ旅装束を繕ってるんです。倹約これすなわち正義!」
「俺はてっきりミミズが真夏のアスファルトの上をのたうち回る図を、刻銘に描いた刺繍をつけているのかと。」
「アス…?何です?」
「気にするな。物の例えだ。」
「なんだかものすごく失礼なことを言われたのだけは分かりましたよ!」
「そう力任せに握るな。皺になるだろーが!」
「皺の一つや二つどーだっていいじゃないですか!」
「まぁな。…だがお前が握ってるそれはどう見ても俺のマントだと思うんだがな。アメリア?」
「ぎっくう…!?えええっとその私調度自分の分を直してたんですけど、ゼルガディスさんのも、目に入ったものだからついでにと思ってですね!!」
「…ついでな。」
「ついでです…!!」
「それなら任せて…いいのか俺?
「何自問してるんですか?変なゼルガディスさん。ちゃんとかっこよく仕上げてあげます!さっ集中するんですからゼルガディスさんはあっち行ってて下さい!」
「おっおい!まだ任せると決めたわけじゃ!」
「明日の出立には間にあわせますからね!おやすみなさーい。」

バタンッ

「…いつにも増して強引なあの態度…。…胸騒ぎがする。」


翌日


「おーい。ゼル。仕度できたか?ってお!マントの裏地に…の…呪いの札を縫い付けたのか?よく効きそうだな。」
「自分で自分を呪ってどーする。…良く見ろ。火竜王の護符のなれの果てだ。…無残な。」
「あっほんとだ。下にちっちゃくアメリア作って書いてある。自分の物には名前書くんだな。流石アメリア。」
「何が…誰のものだってんだ…おい!!」
「それともサインってやつか?アメリアブランド?」
「人の話を聞け!!」

その後金髪の剣士は、
アメリア作の部分に指をあてて、こっそり糸がほつれにくくなる魔法を
かけている魔剣士の姿を目撃することになるが、彼の並々ならぬ記憶力を持って、その姿は封印されることとなる。

かくして、この出来事は静かに人知れず、使い古されたマントの裏に縫いとめられたままになっているのであった。



おわり









2008-04-22